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(2003.11.8 山梨・山梨県馬術競技場とその周辺)
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マーベル
マーベル、AIGLEのカタログ撮影にも使われたそうです。
リンゴをもらったばかりのマーちゃん、
自作のリンゴジュースを私の袖になすりつけ中。
日の出乗馬倶楽部の友達(っていうか大先輩)Aさんが、最近エンデュランス競技に手を染めていて、すでに半年ほど前にエンデュランス3級を取得しています。エンデュランスは、馬のケアをするクルーも大事な役割を担う競技だということに興味があったので、それを聞いたときに「クルーが必要なら声をかけて」と言っておいたのですが、彼はそれを覚えてくれていて、今回の「エンデュランスJAPANカップin八ヶ岳」40kmに出走するのに誘ってくれたのです。2級検定を兼ねた40kmは、馬体検査があるのでクルーが必要になります。今回の出走は大泉高原牧場フリースペースの馬を借り、同牧場の所属として出場するので、クルーはフリースペース側でも準備しているのですが、人手はいくらあってもいいということなので、勉強かたがたお手伝いさせてもらうことになりました。
始めはお手伝いだけのつもりだったのですが、Aさんが「せっかくだから乗れば? 5kmか10kmくらいなら出られるでしょ」と言い出しました。そう言われるとその気になり、5kmでもいいけど、せっかく高い参加料を払うのだから10kmでもいいかな、と思い始め、10kmなら1時間〜1時間30分の距離だと聞いて、それなら今までの外乗とそう変わらないかな、と安易に出場を決めてしまいました。

さて競技の前日、金曜日ですが馬体検査と説明会があります。本当はそこから参加するつもりだったのですが、仕事の都合で参加できなくなってしまい、山梨入りしたのは金曜日の夕方。フリースペースはペンションでもあるので、宿泊もそこです。馬たちはすでに馬体検査をすませて山梨県馬術競技場に入厩ずみ。食事の後、今大会の実行委員でもある気さくな高木オーナーと、みんなから「おかあさん」と呼ばれるオーナー夫人から、馬やコースについての注意事項を受けました。「サラはどうか知らんけども、うちの馬は中間種やから、引っ張ったら駈歩出んからな。サラと違ってびゃーっとは出んから、手綱許して駈歩が出てから引っ張っても遅くない」など。60km、40km、20kmに出る人達には他にも細かいアドバイスがありましたが、10kmについては「なーんも心配せんでええで。落ちるような馬出してないし、安全に乗って帰ってきて」とのこと。いろいろ言われるより、帰って気が楽になりました。プログラムを見ると、10kmはエンデュランスでさえない、「トレッキングトレーニングクラス」という競技名なわけだし(60km以上で初めて「エンデュランス」と呼ばれるようです)。

翌朝は5時半出発なので、4時半起きで朝食。お弁当が準備してありましたが、ちっとも喉を通っていかず、半分も食べられませんでした(あとから思えば、これがいけなかったんだが)。
車で山梨県馬術競技場へ。昨日もらったプログラムで、自分の乗る馬は「98マーベル・ハフリンガー・5歳・尾花栗毛・セン馬」だと分かっています。ハフリンガーっていう種類はまだ見たことがないな。厩舎に馬名が貼ってあったのを頼りに探すと、いたいた、本当にすごい金髪の馬。ちっちゃくてかわいいー! これがまた人懐っこい馬で、小さくても丈夫そうな足元をしているし、この馬なら安心そう。
20km競技(エンデュランス3級の検定を兼ねている人がほとんど)が8時に出発、10kmは11時の出発になっています。いったん馬術競技場の馬場に上がって、20kmエントリーの人馬が出発するのをお見送り。この馬場、1年ちょっと前にAさんの、全乗振3級検定とすずらんカップ出場応援で来たところ。私がこの馬場に入るなら馬場競技で、もっと先のことだと思っていたので、こんなに早く別の形で入ることになったことに感慨深いものがありました(って大げさ?)。

それから厩舎に戻って、少し馬房のボロ取りを手伝いましたが、「あなたたちはこれから走るんだから休んでなさい」とおかあさんに言われ、自分の体力を考慮して休憩。9時半ごろから20kmの人馬が帰ってくる予定なので、ふたたび馬場へ。だんだん気温が上がってきて、これならカットソーの上にプロテクティブベスト(プロテクター)を着けるだけでも十分そう。
待っている間に、「10時になったら、あなたたちは下(厩舎)に行って馬に乗りなさいね」というおかあさんの指示。9時半頃、20kmを走り終わった馬が帰ってきました。馬の心拍数を下げるため、スポンジに水を含ませて馬の腋下(というか前膝の裏)や、内股の間をばしゃばしゃ冷やします。しばらく冷やしてやって汗こきで水を切り、タオルで乾かしてから心拍をはかり、獣医検査に行かせるところでもう10時。フリースペースのスタッフさんと一緒に馬房に降りました。

スタッフさんが馬装をしてくれている間、自分の馬装。エンデュランスでは拍車も鞭も禁止なので、馬装と言ってもショートブーツ&ミニチャップス、上半身はプロテクターの上からゼッケンを着ける程度。そうそう、水分補給もしておかないと。
ブリティッシュとどちらにするか迷ったけど、結局ウェスタン鞍を装着してもらって、マーベルが引き出されてきました。マーちゃんの体高はポニーサイズなので、これなら踏み台なしでも乗れるだろう。 左側の鐙に左脚をかけると、体高の割にはずいぶん鐙が高い位置にあるなぁ。スタッフさんも「鐙短いですね」と少し長くしてくれました。それであらためて鐙に左脚をかけ、ホーンをつかんで乗馬。座ってみると、鐙がえらく短い。まるで障害やるような長さ。ウェスタンの鞍は、鞍の上から腹帯や鐙革を調節するのはかなり難しいので、全部スタッフさんにやってもらいますが、ずいぶん苦労しています。「…昨日小学生が乗ったんで、鐙が短くなっちゃってるんですよね」鐙の金具が奥まで入り込んでしまっているらしく、私がほとんどホーンに太ももを乗せるようにして脚を浮かせても、まだ鐙革が引っ張れないようです。仕方なく、一度下馬してから調節してもらい(それでも苦労していたけど)、再び乗馬。

相方はまだ騎乗していないので、それを待つ間は厩舎まわりの駐車場で常歩。あれ、常歩でもけっこう軽いじゃないか。大して脚を使わなくても、発進の合図だけ送ってやればとことこ歩きます。あらかじめ手綱を引っ張るなと言われていたので、手綱がゆるゆるなせいもあるかもしれないけど。でも困ったことに、自分の右股関節に少し、スジが違ったような違和感があります。痛みというほどでもないけど、10kmあるわけだからなぁ。鞍の上で、すこし脚を屈伸してみますが、それでも違和感がとれません。
厩舎のどこかで、馬の鳴き声がしました。するとマーちゃんは、それに応えて「ぶひひひひん!」といななき、立ち止まってしまいました。脚で軽打するとまた歩き始めましたが、歩きながらまた他の馬のいななきに応えてる。これだけ知らない馬がたくさんいると、直接顔を合わせなくても珍しいのかな。
しばらく歩かせているうちに、相方のほうの準備も整ったようなので、乗馬のまま競技場へ向かいます。厩舎を抜けて地下馬道へ。馬事公苑の試合のときには、馬が地下馬道に入りたがらなかったものですが、相方の乗るビスコちゃんは道産子だし、マーちゃんも中間種だから落ち着いたものです。
スタート地点の隣りの、準備馬場に入って少し馬を動かすことにしました。

動かしてみると、マーちゃんってけっこう重いかも。前にビスコちゃんがいれば(ビスコちゃんは牝馬なので、その後ろにつけるのはドキドキだったんだけれど、「マーちゃんがおかまだから大丈夫よ」とおかあさんには言われていました。確かに真後ろにつけても蹴られなかった)やっと動くけど、前に馬がいない状態では速歩を出すのもけっこう大変。前に馬がいさえすれば、けっこう速い速歩が出るのに、前に馬がいないとダメらしい。ビスコちゃんの後ろで走って、ビスコと違う方向へ転換しようとすると反抗する位です。ここで反抗されてるようじゃ先が思いやられるので、そこは力ずくで私の思った方向へ曲がらせます。
ラチ添いを常歩で歩いていると、突然立ち止まったマーちゃんがぐーっと首を下げて、ラチの下に生えている青草をつまみ食いしようとしました。後で聞いたところでは、マーちゃんはつまみ食い帝王らしいのです。なかなかつまみ食いをやめてくれないマーちゃんを引っ張って、馬場の内側へ。ラチに近づけるとまたやられそうだから、ちょっとラチから離して速歩。
試しに駈歩を出そうとしてみましたが、ウェスタンの鐙だと脚を引くのがうまくいかなくて、うまく出せませんでした。しかも私が内方脚として使いやすいはずの右の脚の違和感は、駈歩を出そうとすると「痛み」になってしまいます。これは困った。お互いに常歩で歩いているとき、相方に「不本意かもしれないけどさー、今日駈歩なしでもいい? 脚の調子がちょっと悪いわ」と言ってみると、「うん、この子も駈歩出にくいし」という返事。まぁ、10km全部を軽速歩でも、時間内には帰ってこられるはずなのだ。
おかあさんが馬場に入ってきて、腹帯や鐙の最終調整をしてくれました。「あんまり手綱引っ張り過ぎないでね。こういう馬はね、『ほー』って言ったら止まるから。マーベルなんか、『ほ』だけでも止まるよ。だから逆に、うっかり言っちゃいけないときには言わないようにしないとね」。手綱はあらかじめ、たるむくらい緩めに持っていたのですが、もう1度おかあさんに長さを見てもらうと、たるませなくてもいいということなので、引っ張らない程度に手綱を張ります。水勒だしね。

出走は11時から、1分間隔でスタートします。相方と私はグループ走行になっているので同時スタート、11時3分の発走予定。15分前、待機馬場に馬を入れ、ここからは常歩で待機。その間、大会委員から「追い越しをかけることがあると思いますが、追い越す側からちゃんと声をかけて、追い越される側もちゃんと返事をしてから追い越しをしてください」という指示。ゆうべ、一緒に宿泊した人から「追い越しのときに、追い越される馬がビビっちゃって」というような話も聞いたから、追い越しは要注意だな。
そこへ大会本部から連絡が入り、前の競技がずれこんでいるので発走を15分遅らせるということ。これで発走時間は11時18分になりました。ってことはだ、そこから1時間半を超えるとタイムアウトだから、12時48分までに帰ってくればいいのね。家を出る時に時計を忘れたので、100円ショップで調達したチャチなデジタル腕時計で時間を確認。
前の順番の人馬が次々と出て行き、いよいよ自分達の番。スターターはフリースペースのオーナーなので、「頑張ってきてね」と見送られ、スタートを切ります。馬場内から速歩を出し、登り坂を登ると、そこにフリースペースの面々がいて、また見送ってくれました。手を振って応えたいとこだけど、ちょっと手綱を片手で持つ余裕のない私。
そこですでに、前に出発したグループの馬が前に進まなくなっていて、早くも追い越しをかけることに。前の馬は立ち止まっていたので、スムーズに追い越させてもらいました。

その坂を登りきり、競技場を出てララミー牧場の横を抜けると、いよいよ人の姿が見えなくなります。道は落ち葉がいっぱい積もっていて、クッションが良さそう。間違えそうなところはロープが張ってあったり、矢印の標識があるので、それに従って軽速歩で進みます。上り勾配の続く道で、また前の馬が止まっていました。それを追い越させてもらい、前へ。ゆうべオーナーから、「基本的に2ポイントで」と言われているのですが、さすがにずっと2ポイントだと今度は腰が痛くなりそうなので、2ポイントをとりやすい上り勾配だけ2ポイントで。
ところどころ、突然道がぬかるんでいたり、大きい石が露出していたりするところは慎重に。それでも石につまづかせたり、脚をすべらせたりさせてしまい、跛行でもさせたらどうしようかとちょっとドキドキ。上り勾配は馬の行く気に任せて手綱をゆるめにして、自分は前傾して鞍から腰を浮かせていればいいので、そんなに難しくないのですが、下りはちょっとなぁ。少し手綱を持ってあげて、鞍にしっかり座って上体を後ろに倒して進みます(あとで聞いたけど、上級者は下り勾配でも2ポイントなんだとか。なんかあったら投げ出されそうでコワイよー)。

ゆるい上りのつづく山道を標識どおりに進むと、フェンスに囲まれた長い坂道に出ました。足元には枯れ葉がたくさん降り積もっていて、ひたすらまっすぐな道。ここがAさんに地図でレクチャーされた「駈歩するのに絶好のポイント」かな。
そこを速歩で登っていると、前にいる相方が何か言いました。「何? 聞こえない」もう1度何か言ったけど、速歩のスピードを上げているし、前から何か言われてもぜんぜん聞き取れません。すると、相方が駈歩になりました。あれー、駈歩なしって言ったじゃん。「やってみたくなったんだよー」やっと聞き取れた! 協定破りやがったな。
あんまり前の馬から置いていかれては、こっちの馬が焦って引っかかったりしたら危ないので、仕方なく私も駈歩を出すことに。ウェスタンの鐙では外方脚(と私が決めたほうの脚)が引きにくいうえ、さっき馬場で駈歩が出せなかったから自信ない。でも、とにかく外方と決めた左の脚を引いて、馬の腹を持ち上げるつもりでぎゅっと脚を使ったら、駈歩が出ました。
あ、思ったより気持ちのいい駈歩だな。でも私の脚が離れたらすぐ止まりそうな程度の駈歩だったので、脚で腹を締めたまま駈歩。前の相方が常歩に落とすと、それを見てマーちゃんも常歩に落ちました。あら、あと3〜4歩駈歩で良かったのに。

このあたりは、人間用のトレッキングコースでもあるらしく、たまに人とも行き違います。でもこちらがゼッケンをつけているので、何かの競技をやっているということは分かってもらえたようで、出逢った人はたいてい脇によけてくれたので助かりました。「ありがとうございます」と声をかけながら通過させてもらうと、「お馬さんがんばってるねぇ」と言ってくれる人も。
この辺りはけっこう石がごろごろしてるから、という前日のアドバイスどおり、道に少し石が増えてきました。石の多いところで馬を急がせると脚をやられる、ということを聞いたのでゆっくり行きたかったのですが、相方はずんずん行ってしまいます。ほんとに大丈夫かよ、と私は不安に思いながら行くので、すぐ相方に離されてしまう。馬同士が離れるといいことないので、「待ってー」と声をかけて待たせ(あんまり待ってくれないけど)、追いつきます。下り坂は(私が)苦手なので、できれば常歩でいきたいと思って、相方にそう言ったのですが、ちょっとイヤそう。そりゃーそっちはガンガン行きたいのかもしれないけどな。
相方は一応下り坂は常歩にしてくれたのですが、自分が降りきった時点ですぐ速歩に移行しています。マーちゃんはそれにつられて速歩を出そうとするので、まだ坂を降りきらないところから慌てて速歩を出すようになってしまい、それが私としてはちょっとビビる。自分が降りきって一拍おいてから速歩を出してもらえませんか、と言ったのだが、相方にはどうしてそれがイヤなのか分からない様子。度胸がある人には、度胸がない人(私)が何にビビるのか理解できないんだよね。

行きで上り坂の多いコースが続けば、帰りは下り坂の多いコースになるのが当然というもの。5kmを過ぎたあたりから、下り坂が増えてきました。
けっこう勾配が急になってきたので、さすがに相方も常歩に落として下ります。そして次に現れた3〜4メートルほどの下り坂は、小さいけれど勾配がきつくて、坂というより土手。こ、これを降りるの。周りに迂回路があるわけじゃなく、とにかくこれを降りなければ先へ進めません。なけなしの勇気を絞って歩を進めます。これは今までの道よりも、もっと上体を後ろに倒して、バランスをとっていかないと。
と、マーちゃんの前脚のバランスがぐらりと崩れ、私も左側に大きく傾きました。ました。落ちる! こんな急坂で私が落ちたら、間違いなくマーちゃんと一緒に人馬転だ。とっさにそう考え、何があっても落ちるもんか! と右足を踏ん張った瞬間、両脚から両脇へかけて、ビリビリッと引きつるような痛みが走りました。でもここで諦めたら確実に落ちる。その勢いで手綱を引っ張ってしまい、マーちゃんが「何すんの!」というような顔をするのが見えました。痛みをこらえて膝でしがみついて踏ん張りなおし、どうにか体勢を立て直し、平坦なところまで降りました。

無事降りられたはいいが、さっき踏ん張ったときの痛みが脚にも脇にも残っています。たぶん、急激に強い力を入れたので、筋肉がびっくりしてしまったのでしょう。
ちょっと休んで、痛みが少し静まったところで再出発。どれくらい時間をロスしたのかな、と時計を見ようとしたら、時計がありません。あらー、さっきので外れたか。もともと、ゴムコードをスナップボタンで留めているような感じの簡易的な腕時計だったので、何かに引っかかって簡単に外れるようなものだったし。でも一応タイム内に戻れないと失権するから、時計がないのは痛いな。
次にさしかかった坂は、さっきのものほど急坂ではありませんが、少しキツめではあります。上体を後ろへ倒しながら、そこへ1歩踏み出したのですが、マーちゃんがぴたっと止まりました。さっきの坂でマーちゃんなりに怖い思いをしたのか、私のビビりを感じとっているのか、前へ進もうとしません。脚で蹴っても前へ出ないので、「わかったよ、斜めに降りようね」と少し馬体を横へ傾け、斜め下へ向かって降りるような体勢にして脚を入れてやると、ようやく降り始めました。
でも次の坂でも、やっぱり1回止まられてしまいます。私のせいで下り坂キライになっちゃったかなぁ。その都度相方に「待ってー」と言っているのですが、止まってくれない(ように見えた)ので「待ってってば!」と言うと、相方もだんだんイライラしてきたらしく、「そんなに急に止まれない!」という返事が返ってくるようになりました。
こんなに勇気のないことでは、10km完走できるかどうかもあやしくなってきた。私ってきっと、エンデュランスに向いてないんだわ。泣きたくなってきた。

かなり精神的にへろへろになりながら速歩で進んでいると、ここに来て後ろのグループがかなり近づいてきたので、スピードを落として追い越しをかけさせてあげました。
それから先、相方があまり待ってくれなくなりました。なんか、追い越されたことによって焦り始めたんじゃないかと後ろから見ていて思ったのですが(本人は違うと言うだろうが)、私はもう無事にゴールさえできればいいと思っていたから、そんなに慌てても心拍数上がるだけだぞぉ、と思っていたのですが。
相方とビスコちゃんの姿が、カーブを曲がって木の陰に見えなくなりました。あーやばいな、と思ったとき、マーちゃんが「ぶひひひひひぃん!」と鳴きました。あっ、マーちゃん寂しくなってる。相方に声をかけて待ってもらい、ようやく追いついたところで、舗装された道路に出ました。係員さんに誘導されて横断歩道を渡り、車道沿いの松林の間、遊歩道のようなところを走ります。脚もとは松の落ち葉でクッションが効いていて走りやすいのですが、何しろ車道沿いなので何があるか分からないから、駈歩はパス。
だいぶ道が平坦になってきて、気持ち的に少し楽になってきました。ここまできたらもう少しのはず。遊歩道を歩くトレッキングの人たちに見送られながら(彼らは本当に静かに見守ってくれました)、先へ進みます。

松の間を縫うようにして速歩で進むと、だいぶ視界が開けてきて松がまばらになってきました。またマーちゃんがぶひぶひ言ってるなと思ったら、馬がいます。どうも放牧場らしくて、そこの馬に挨拶したのでしょう。その奥にラチが見え、砂の走路が見えました。あらっ? これはもしかして、もう馬術競技場に戻ってきたのかしら?
走路に入るところにAさんが待機していて、写真を撮ってくれました。「なんだ、無事に戻ってきたのに笑顔がないなぁ」と言われてしまいましたが、私けっこうヘコんでいたんだもん。
ゴールまでは、この走路を半周ほどしてから入ります。走路は砂が細かい上に雨が降って固まっていて、けっこう固いみたい。駈歩でもいけるかもしれないけどどうしようかなぁ、と思ったところで、マーちゃんが前肢をガクンとつまずかせました。固い砂の上で、蹄が「バタン」という音を立てるくらいだったので、大丈夫かなと思いつつそのまま速歩で行こうとしたら、次の完歩でもまたバタン。3歩目もまたつまずき、これはまさか跛行か? とちょっと慌てて常歩に落とします。
こんなゴール目前で跛行なんて、と悲しくなりながら歩かせますが、歩く歩様には異常を感じません。「とりあえずもう1回速歩出してみて、ダメだったらまた常歩にしよう」と相方が言うので、ゆっくり速歩を出してみたら、普通に走り出しました。えー、さっきのは何だったのよ?

走路から馬場へ上る坂へ入り、ようやくゴール地点の競技馬場が見えてきました。
馬場に入る寸前、どこかで馬が鳴きました。「ぶひひひ!」と返事して、そっちへ向かおうとするマーちゃん。何やってんのよ、ゴールはこっちだわよ。
相方より2〜3メートル遅れて馬場内に入ると、馬場入り口の脇から「ゴールや、お帰り」という聞き覚えのある関西なまり、そっちを見ると高木オーナーのニコニコ顔。彼は競技委員なので、オフィシャルのゼッケンをつけてそこにいるのは当たり前なのですが、知った顔を見てものすごくホッとしてしまいました。
でも本当のゴールラインは馬場入り口ではなく、その数メートル先に設置されたライン。そこまで速歩でたどりつくと、オフィシャルから自分のタイムを書いた紙を渡されました。スタートが11時18分、ゴールが12時40分。ということは1時間22分で、どうにか1時間半以内に帰ってこられたみたい。よかった。
10kmには獣医検査はありませんが、一応ゴール時の心拍数を計ってみたら、ビスコちゃんは70台だったのに、マーベルの心拍数はすでに56/分。10kmなんてこの子には、お散歩程度でしかなかったのかしら。すごい心肺機能の強い馬なのかもしれない。
この日はこのあと、チームエンデュランス競技がありましたが、フリースペースからは出場していないのでこれで終了。エンデュランス検定を兼ねている人たちは夕方から筆記試験があります。2級検定を受けるAさんの筆記試験の終了を待って、食事ついでにプチ酒盛り(笑)をして、この日は早く寝ました。

翌日は60km、40km競技がありますが、60km競技のスタートは何と6時半。当然馬も人間も、準備やウォーミングアップをしなければならないので、3時半起きで朝食。オーナー達はすでに競技場に向かっており、朝食はお弁当が準備されていたので、お弁当はここで食べずに競技場へ持っていくことにしました。今日は競技に出ないので、手の空いたときにでも食べればいいや、ってことで。
今日は1日、完全にクルーとして働きます。60km競技の出場人馬を見送り、厩舎に戻って馬房掃除。でもそれが終わらないうちに、40km競技の準備をする時間になってしまいました。
40km競技にはAさんと、ゆうべAさんやうちの相方と同室だったNさんが出場。私が昨日乗ったマーベルも、Iさんという女性が乗って40kmに出ます。それぞれの人馬が出て行くのを見送り、朝に食べなかったお弁当をかっこみます。

60km競技は30km×2周で、30kmの時点でいったん馬場内に戻ってきました。ここからがクルーの仕事。いったん鞍を下ろして、バケツにくんだ水をスポンジを使って馬にばしゃばしゃかけます。ときどき汗こきをして水をきり、おかあさんが心拍数を計り、それでまた水をかけたり、場合によっては引き馬をしたり。フリースペースからは何頭も出ているので、それが1度に帰ってくると確かに人手は足りません。そして30分の強制停止のあと、60km組はふたたび出発していきました。
40kmは20kmコースを2周しますが、折り返しでの強制停止や馬体検査はなく、ぶっつづけで40km走り続けます。あるのは給水ポイントくらい。各ポイントに係員がいるので、現在の走行状況は放送で入ってきます。放送によると、Aさんは最初トップ走行していたはずなのですが、2週目からはトップを譲ってしまったようです。途中何かあったんだろうか。

「藤棚(のあるポイント)越えたらもう10分くらいで帰ってくるで」と高木オーナーが言いに来て、いくらもしないうちに40kmのトップ走行の人が帰ってきました。もうまもなくAさんも帰ってくるはず。昨日Aさんが私たちを待っていてくれたポイント、走路の入り口でカメラ持参で到着を待ちます。
けっこうイケイケ走法(きゃー、Aさんごめん)のAさんのこと、速歩か駈歩で松林を抜けてくるかと思いきや、ゆっくりとした常歩であらわれました。「どうしたの?」と聞くと、「参ったよ、途中で胸がいが切れちゃったんだよ」ということ。聞けば、急な坂を登っている最中に胸がいがぶちんと切れて、それを修理していた(修理できるってとこがすごいが)ので遅くなってしまったということ。Aさんはとても勇気のあるベテランライダーなのに、やっぱりこういうアクシデントに見舞われてしまうんだ。あらためて、40kmなんて距離は生半可なことでは走破できないものなんだと痛感させられました。

ゴール地点の競技馬場に先回りして、ゴールでAさんを出迎えます。そこからはクルーとして、馬のクーリングダウンに働きました。
Aさんとヤマトにフリースペースのスタッフさんがついて獣医検査に行ってから、Iさんの乗るマーベルも帰ってきました。「全編軽速歩で行くわよ」と宣言していた彼女、体力温存策が功を奏したようです。マーちゃんも、40kmも走ったのにけろりとしていて、心拍数もさっそく58まで落ちています。この子、実はスーパーホースなんじゃないの。
マーちゃんのクーリングダウンを終わり、獣医検査へ。さっきAさんとヤマトが行く時には、オーナーがスタッフさんに「ちゃんとついていけよ、1人で行かせるなよ」と言っていたっけ。自分も縁のある馬だし、Iさんとマーちゃんが検査に行くのについていくことにしました。

ゴール時から心拍数の落ち着いているマーちゃん、こともなげに馬体検査をクリア。あとは歩様検査があります。小さな馬場で、ライダーが引き馬で速歩をさせ、その歩様を獣医さんに検査してもらって、これをクリアして初めて「完走」となるのです(10kmでは免除だった)。
馬場に入って獣医さんに挨拶すると、スタート地点からV点(おそらく馬場競技用の標識を借りてきたのだろう)までの20メートル程度の直線を、速歩と常歩を交えて行くように、それからV点を折り返してスタート地点に戻るまでは止まらず速歩で、という指示がありました。
Iさんがマーちゃんを引いて、歩様検査開始。ですが、引き馬でなかなか速歩が出ません。スタート地点でハラハラしながら見ている私に、獣医さんが「もしこれで出なかったら、もう1度後ろから追ってもらいますからね」ということ。あ、もう1度やりなおさせてもらえるんだ。良かった。「引き馬で速歩が出ない子だって分かってたらね、引き手を2本にして引くんですよ。まぁあとはね、馬の躾の問題ですね」まぁマーちゃんはまだ5歳だから、これから覚えたらいいんだけど、今日のところはやり直させてもらいます。
再検査で、今度はIさんがマーちゃんを引いて走り出した後ろから、舌鼓を使いながら走って追いかけます。よし、速歩出た。心配でマーちゃんを振りかえりながら走ろうとするIさんに、「後ろ見ないで! 見ると馬止まっちゃいますよ!」「人のほうも頑張ってー!」と獣医団から声が飛びます。私も一生懸命舌鼓を使い、少し手振りも交えながらマーちゃんを追います。Iさんも何しろ40km走破したあとだから、よれよれになりながらゴール。「はい、合格です」と、獣医団の代表の先生がニコニコしながらIさんに近づき、「おめでとう、握手をさせてください」それを側で見ていた私も、その言葉と笑顔にじーん。ホースマンシップあふれる、素敵な獣医さんでした。

日が暮れるころ、全ての競技が終了して表彰式。フリースペースはけっこう強豪だったりして、優勝やベストコンディションドホースなどの表彰をいくつか受けました。そして総合的に優秀だったグループ(そんな感じ)の賞も、フリースペースへ。これはもちろん、3日間ほとんど食べず眠らずで頑張ってくれたおかあさんへ。
20kmから80km(!)競技の表彰が済んだところで、司会の高木オーナーが「それではブービー賞の表彰に移ります。まず10kmから…」へぇ、10kmは順位なしのオープン競技だったのに、ブービー賞なんて作ったんだぁ、と思っていたら、「フリースペース、KYOKOさん」…はいっ!? 私ですかいっ!?
手招きされて、表彰台へ。ブービーなんで、表彰台へ上るのは固辞して、賞品を受け取りました。ホントに喜んでいいのか分からない賞だけど、あとでI野先生に報告したら「良かったじゃないか、何でも貰えるものは貰っておきなさい」と言われました。そうだなー、10kmで賞をもらったのは私1人なわけだし、といい気になって、昨日「自分はエンデュランスに向かないかも」とヘコんでいたことがどうでも良くなってしまったりして(笑)。
10km競技は参加者11名で、完走7名、タイム失権4名。私は7番目のタイムだったので、タイム失権した4名の人達が同着最下位の扱いだったのでしょう。あとから考えれば、相方がいなければ私は確実にタイム失権していただろうなぁ。

少しだけエンデュランスの世界をかじってみて思うのは、本当に生半可なキモチでは取り組めない競技だということです。何しろ人にも馬にも体力と精神力が必要だし、私の場合はさらに度胸が必要だ。でも20kmまでなら、また走ってみたいなぁ。3級くらいは、いつかチャレンジしたいと思います。

マーベル引き馬
40km完走後のマーちゃんを引き馬。
かわいいだけじゃなく、すぐ心拍が下がるスーパーホース

ビスコちゃん
相方の乗ったビスコちゃん。道産子、青粕毛。
彼女はスエトシ牧場から借りてきた子なので、
馬運車に乗って帰るところ。なんか笑ってるぅ〜。

完走証と参加賞とブービー賞
完走証と、参加賞の馬のぬいぐるみ。
左は栄えあるブービー賞の賞品、馬のカード

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