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(2003.9.14 山梨・ヒロ牧場)
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3連休の中日、今日は友達の誘いでビジター乗馬。彼もビジターのまま障害を習いに行っているところだそうですが、「納得するまでマンツーマンで教えてくれるし、ちゃんとレベルを見て教えてくれるから」というので、相方と一緒に車で連れて行ってもらうことにしました。障害は1年近く飛んでないけど、横木からやらせてもらえるというのでリハビリもかねて。
場所は山梨の上野原。天気も良くてドライブ気分、といきたいところだけど、こ、この山道は…ちょっと車に弱い私にはキツかった。

「え、こんなところに乗馬クラブがあるの? 」と思うようなところにあるから、という友達の言葉どおり、細く曲がりくねったアスファルト道をどんどん登って、登りきったところにいきなり馬場が開けました。オーナーのヒロ先生が開墾からクラブハウス建設までやっちゃう人なんだそうで、20×40くらいの馬場が2つと、それより小さめの馬場が1つ。馬場には調馬策を回している人と、ラチに座って指示をしている人がいます。たぶん指示している人がヒロ先生だと思うけど、Tシャツとジーンズ姿、良く焼けた顔にタオルのねじりはちまき、小柄で敏捷そうだけど、言われなければ「先生」とは気付かない風貌。クラブハウスの中に入ると、流しやソファ、暖炉とふとん部屋、合宿もできそう。着替えるところは「お風呂場使って」ということで、とりあえず着替え。友達が先生のところにレッスン時間を聞きに行くと「11時半からひとりづつ」ということですが、私はまだちょっと車酔いで本調子じゃないからと相方に先に乗ってもらうことにしました。障害がちょっと怖い私のために、「馬場だけでも見てくれるそうだよ」ということでしたが、悩むなぁ。馬場も教えて欲しいけど、障害の得意なクラブに来て障害教えてくれなくていいですって言うのは、紅茶専門店に来てブレンドコーヒー頼むようなもんだ。

クラブハウスを出て、馬繋場に行ってみました。馬たちの足元にはとうもろこしの茎がどっさり置かれていて、彼らは夢中で食べています。収穫後の茎みたいだけど、きびだからきっと甘くておいしいんだろう、繊維や栄養も多そうだし。
そうしていると、友達に呼ばれてヒロ先生に紹介されました。「じゃあどっちから乗りますか?」「あ、僕から」栗毛の馬が引き出されてきました。特に大きくはないけど、お尻の肉付きがきれいな馬。クリアくんというそうです。相方の乗るのを見ていると、どうやら徹底的にバランスを直されているらしい。右へ曲がるのに、開き手綱で「右の顔をつくって」と言っているのは、ここでは内方姿勢をそういうイメージで教えているみたいだな。
スタッフさんが入れてくれた麦茶を飲みながら待っていましたが、45分のレッスン予定が、気がつけばもう1時間を越えています。教えてもらう側ではなく、教える側が納得するまで教えるのがヒロ先生のスタイルなのらしい。ようやく相方のレッスンが終わりましたが、障害はなし。ってことは、私も馬場レッスンのみで終わりそうだな。

いったん馬を馬繋場につないで休憩。だんだん雲行きがあやしくなってきました。「これは降るかも」、とそこにいた皆で言い始めたとき、ヒロ先生がタバコを捨てて「じゃあ降らないうちにやろうか」。クリアくんが引き出されるのを待って、馬場に出ます。友達も隣の馬場で障害をやるみたいだけど、あっちはフリー騎乗かな。
さっき相方が持たされていたので、短鞭を持ってクリアくんのそばに行きます。鐙を合わせてみると、3穴短くするだけですみました。本来なら相方と私は5穴くらい違うはずなので、ずいぶん短くして乗ってたんだねぇ、とあとで言ってみたところ「うん、障害のつもりだったから」、そうだろうなと思った。私はたぶん馬場だけだろうから、短くしなくていいや。
先生が踏み台を持って来てくれたので、騎乗。腹帯を締め直してもらって、「じゃあしばらく好きなように運動してみてください。何してもいいよ」そう言っても、もちろん放っとかれるわけではなく、私の騎乗ぶりを見られるわけなので、緊張するなぁ。そういえばヒロ先生からは鞍数とか一切聞かれなかったから、本当に騎乗ぶりだけでレベルを判断されるわけです。

常歩発進、あら軽いわ。ちょっと脚で締めただけでさくさく歩いてくれます。2周ほど常歩したあとで、速歩に移行。これも簡単に出て、しかも反動が楽。まるで自分がうまくなった錯覚を起こしそうな座りやすさです。
だからってずっと正反動ばっかりやっているわけにもいかないので、軽速歩を入れていきます。ずっと同じ運動で馬が飽きるといけないので、斜めに手前を換えようとしたら、曲がらない。あれ〜。でも昨日のJRみたいにムキになって反抗している感じではなく、どうも私の扶助がわからないような。さっき相方のレッスンをみたとき、内方は開き手綱で、外方は押すというよりも緩める手綱を指導されていたことを思い出しました。私は普段馬を曲がらせるとき、そんなに手綱を使わない(使うとしたら最後の手段として)のですが、ここの馬が調教が違うとしたら、少し大袈裟なくらい手綱を使ってもいいのかもな。

そんなことを考えながら馬を動かしていたら、ヒロ先生が手を挙げて馬を止めました。「いつもその鐙で乗ってますか?」「いえ、短いです」「そうだよね、乗りにくそうだ」鐙を1穴長くして、先生の話は続きます。「立つときは、もう少しあごを出して、もう少し前に向かって立ちあがりましょう。馬の頭、このへん(項より少し後ろのたてがみの線)に、自分のあごをそっとのっけるつもりで立つといいです。それで少し軽速歩してみて」と言われて軽速歩を出し、言われたようにあごをたてがみに乗せるつもりで立ちます。「じゃ、今度はあごを引いて軽速歩」あごを引いてみると、まぁチンガードが邪魔だということもあるけど、なんか首周りが窮屈な感じ。「今、肩でバランスとってて窮屈ですよね。分かりますよね?」「はい」「じゃあ、またあごを出して立ってみてください」あ、なんか立つのに余計な力がいらないかも。「大事なことは、フェイスは常に真っ直ぐ(地面に対して垂直)だということです。障害でも同じ、頭が前に出てもフェイスは真っ直ぐです。競馬はもっと前に頭が出ますけど、顔は起きてますよね。同じことです」。

言われたことを頭に入れて、軽速歩で数周。そこで馬を止められ、次の指導が入りました。「乗っているときにどこを見るかということですけど、馬の耳と耳の間のこのへんに輪があると思って」と先生は、馬の2つの耳を結んだ線の真ん中から、まっすぐ上に20センチくらい上のところに指で輪を作ってみせました。「この輪を通して、風景ぜんぶを見るんです。これだと場所がちょっと違うかな」と先生は、私の鞭を取って馬の顔の前に立て、先端をさっきの輪の5センチくらい上に持ってきました。「ここから、風景を広く見ることができますか?」おぉ、これはまさしく、読んだばかりの本『センタード・ライディング(サリー・スウィフト著)』に基本として書いてあったソフトアイのことじゃないか。読んだだけで、まだ実践はしてなかったけど。どこか1点を見るのではなく、風景全体をまんべんなく見る、意外と難しい。ここは馬場の外に雄大な山景色がひろがっていて、近くには見るものがないので、遠くを見ると割とやりやすいみたい。「できますね? じゃあその目でまた速歩しましょう」。速歩を出して、視界の下端に馬の耳を入れるようにし、風景を広く見るようにしてみます。あ、私って馬に乗っているとき、蹄跡とか馬の耳とか、下のほうのポイントばっかり見ていたかも(前掲の本でいうところのハードアイ)。
「風景があんまり動かなくなったの分かりますか?」「?」「じゃあ、今度はあごを引いて、上に向かって立ってみましょう」やってみると、世界が上下に動き出しました。「今度は前に向かって立って、馬の耳の間見て」やってみると、あまり風景が上下しなくなりました。あ、そういうことか。目の焦点をきっちり合わせて体を動かすと、相対的にそれ以外のものが動いているように感じてしまうけど、焦点を合わせないで全体を見るようにしていれば、体が動いても風景が動くように感じないんだ。「分かりますよね? これで乗ると、けっこうスピード出しても怖くないですよ」。

また軽速歩で馬場を回り始めると、「じゃあ長蹄跡で歩度を伸ばしてみましょう。軽く肩に鞭入れて」軽く振れると、この馬はすごく鞭への反応がいいみたいで、パッと歩度が伸びます。あんまり反応がいいんで怖いくらいだけど、さっき言われた乗り方をしていれば確かにスピードは感じにくいかも。
しばらく走ってから馬を止めると、「立つときに急いで立たないで、ゆっくり立ってみてください」馬を止めたままゆっくり立ちあがると、「今ふくらはぎに力入ってますよね。分かりますよね? じゃあパッと立ってみてください。今度はこのへん(膝からふともも)の力で立ちましたよね? またゆっくり立ってみて。今度はふくらはぎに力入りましたよね?」何度もゆ〜っくり立つのと、パッと立つのを繰り返すと、確かにパッと勢いで立ったときには膝から上に力が入っていて、ゆっくり立つ時には膝から下に力が入る感じ。「じゃあ、いつもそうやって立ってください。そうやって立つと、ふくらはぎが馬体から離れなくなります」…えっ、そうか! これはかなり、私にとっては「悩んでることを言い当てられた!」という感じ。今までも何度か書いていますが、軽速歩の立つときに脚が馬体から離れがちで、そのことは分かってるんだけど、どうやって直したらいいか分からないでいるところだったのです。いやー、嬉しいなぁ。

気がつくと、隣の馬場とのラチ沿いの蹄跡をふさぐように、横木が1本ころがっています。あれー、相方は障害なかったのに、私は障害やるのかな。ほんとは彼のほうが(私よりは)障害志向なんだけど。
「じゃあ常歩でまたいでみましょう」常歩のまま2度ほど横木通過すると、「次速歩でいきましょう」当然そうなるか。1年ぶりだから随伴のタイミングなんか忘れちゃってるわ。「座ったままでいいですよ」というので、しっかり座ったままで通過。2〜3周後には、横木の片方だけ一升瓶用のプラケースの側面(横倒しにして、一番高さのない面。ビールケースよりやや小さめ)に乗せられていて、横木に高さが出ています。それもそのまま通過、あら反動が少ないわ。
そこでいったん馬を止め、「飛ぶときには、馬の頭のここ(項革)を見ましょう。飛ぶ瞬間は、ここがクッと持ち上がってくるから、それから腰を上げればOKです」へぇ、そうなんだ。スタイルの違いなんだと思うけど、今まではアプローチ前から2ポイントで入っていくように習っていました。

横木の両端に一升瓶ケースが置かれ、20センチくらいの障害になりました。あらためて軽速歩から、「横木のちょっと前から速歩にして」横木のある長蹄跡への隅角から速歩に落とすと、これで勢いが落ちるかと思いきや、むしろ馬が障害を見てスピードを上げたような感じ。そのまま障害を飛ばせると、ふわっと飛越して、着地の衝撃もあまりない。これがアルフォンスあたりだと、あんまり障害が低いとバカにして飛ばずに「またぐ」から反動が少ないんだけど、クリアくんはちゃんと飛んでる、のに衝撃が少ない。これだとあんまり怖くないな。
隣の馬場では、ちょうどラチを挟んで対照の位置に障害を置いて、友達が飛んでいます。うわー、一升瓶ケース高い面で2個重ねてるよ。たぶんあれで1mくらいの障害になっているんでしょう。私のほうは20センチを何本か飛んで、一升瓶ケースの向きが変わり、40センチくらいの障害になりました。
軽速歩で回ってくるところで「肩に鞭入れて」と言われて鞭を使うと、パッと前に出てくれたのですが私がついていけず、鞍の上でばたばたになってしまいます。ここからは速歩で、障害へ。ちょっと2ポイントをとるのが遅れましたが、馬がふわんと飛越してくれるので衝撃は少ない。
何周目だったか、左手前でまわる私と、隣の馬場で右手前でまわっている友達と、飛越のタイミングが同じになりました。飛越の瞬間、隣から「がこっ」という音。あぁ障害落としたな、と思う間もなく、私の馬が着地と同時に体をひねって(横蹴りしたと思う)駈け出してしまいました。とっさに体を後ろに倒して腰を張り、手綱を控えると、6〜7歩で止めることができたのですが、鞍の上でバランスを崩してしまいました。あーこりゃ落ちるな、と思いましたが、無意識に反対側の鐙と膝で持ちこたえ、落馬は免れました。あーびっくりした。
クリアくんにしてみれば、飛越と同時に横で大きな音がしたんだから、そりゃびっくりするわなぁ。ちょっと自分を落ち着かせるために、常歩で歩かせます。ラチの外から相方が「よく落ちなかったね、今の」うん、私もそう思うよ。

少し歩いて落ち着いたかな(馬じゃなくて自分が)、と思ったので、再び軽速歩から速歩、障害へ。飛越は問題なかったのですが、着地からまた駈け出してしまいました。クリアくんはさっきの記憶で、ここはびっくりすることがある場所だと思ってしまってるんだろう。すぐ止められたけど、あーやばいな、自分がビビってる。先生に「駈歩だいじょうぶだよね、やったことあるよね?」と言われましたが、「走らせる」のはOKだけど「走られる」のは怖いんですぅ。
常歩に落として、クリアくんを障害のところに連れていき、首をたたいて馴致。馬はすっかり落ち着いたようだけど、私のほうがまだ心臓ばくばくしてる。あーどうしよう、フラットワークに戻したいな。でもこのイメージのまま終わるのは、馬にも自分にもよくなさそうだし、うーん。
先生に「もう大丈夫?」と聞かれ、「うーん」と、心臓ばくばくしてるジェスチャーをしてみせると、障害を横木に戻してくれました。うん、そこからやり直すのならどうにかなりそう。

まずは常歩で横木通過。速歩を出して2回ほど通過して、「次は目つぶってやってみようか」「えっ!?」「大丈夫大丈夫、そのまま回ってきて、僕が目つぶってって言ったら目つぶってください」速歩で横木に向かうと、3完歩くらい前で「目つぶって」と言われ、目をつぶったまま横木を通過。「今、お尻が持ち上がったの分かりましたよね? それが立ち上がるタイミングです。今度はその動きに合わせて、お尻持ち上げてみてください」もう一度目をつぶったまま横木通過。ふっと、お尻というか鞍というか、持ちあがるような感触があったので、今通過したんだなと思って慌てて鐙に立ちます。
今度は目を開けて、でも意識は鞍の下に置いて通過。ちょっと立ち遅れるけど、なんかタイミングは分かってきたかも。次は横木の片端を一升瓶ケースの上に乗せ、ちょっとだけ高さを出したものを通過。「そこで顔を前に出して、拳はこのへん(馬の首の付け根、マルタンガールのあたり)まで出しちゃってください」次の通過でそうしてみますが、お尻が持ちあがるのを待ってから立ちあがっているので、どうも動きにつき遅れてる感じ。

横木の両端が一升瓶ケースに乗せられて、20センチくらいの障害になりました。そこへ速歩でアプローチしていくと、寸前でクリアくんが障害を切って、横木の脇をすり抜けました。次の周でも、また同じように切られる。「それは違うんだなぁ」と先生。うーん、馬の持っていき方が違うのか。今のは自分がビビっていたから、ちゃんと障害に馬を向かせられていなかったんだと思いました。それよりちゃんと飛んだほうがよっぽど安全なはずだから、今度は隅角を深く回して、障害より他を通れないようなルートで馬を回してみよう。障害はラチにくっつけて設置してあるので、ラチ側を回せばそちら側には逃げられないはず。
隅角を深く回して、ラチ沿いに障害へアプローチ、今度は飛べました。飛ぶとやっぱりふわんとしていて、いい感じだ。
その調子で何本か飛んで、気がついたらもとの高さくらいまで障害が上がっているじゃないですか。まだビビっている私だけど、とりあえず馬に任せて飛んでみるしかないだろう。クリアくんは障害を見るとスピードを上げていく子だから、とにかくその気持ちに任せて障害に向かいます(本当は、ここで完歩をつめてやらなければいけないのだと後で友達から聞きましたが、そんな余裕は私にはない)。飛べるけど、やっぱりビビってるなぁ、自分。

「じゃあ次ラストにしよう」ちょっとだけホッとしながら障害に向かいます。飛んだあとで、「そこでもうちょっと拳を出して、顔を前にして」と言われたので、常歩のままでそれをやってみたら「あれ、そこまで前傾できる? じゃあもう1本飛んでみようか」え〜ラストじゃなかったのぉ、と思いつつ、もう一度障害へ。さっきよりは思い切って立ち上がってみると、「そうそう、お尻に抜けていく感じがありますよね? 分かりますよね?」今ひとつ分かりにくかったので首をかしげると、「じゃあもう1本やって終わりにしましょう」。最後はきれいにまとめよう、というのと、最後だから思い切ってやっちゃっていいや、という両方の気持ちを持って障害へ。鞍が持ち上がるのを感じたら腰をあげて、顔は真っ直ぐで、かかとは下げて。「そう、今の感じ忘れないでくださいね」
手綱を伸ばして、沈静化に入ります。ヒロ先生は隣の馬場の友達を教えに行ってしまったので、適当に歩かせながら脚の位置やなんかを復習。沈静化でもよく歩くなぁ、この子。

下馬して馬を馬繋場まで引いていき、途中でスタッフさんにお返しします。
友達の馬に乗り変わって手本を見せていたヒロ先生も、それを終えて馬場から出てきました。相方と私の騎乗を講評してくれて言うことには、「いや、上手ですよ、おふたりとも」先生、お世辞にしか聞こえません…。「目つぶって乗りましたよね、目を開けてても同じことです。いつも鞍の下に馬の動きを感じているように乗るんですよ」うーん、いろんな意味で目からウロコだった。たまにはよそで教えてもらうのも楽しいものだ。
あとで日の出のI野先生に報告すると、「ヒロさんとこの馬はヒロさんが調教してるから、ヒロさんの教え方でよく動くけど、他の人が作った馬はヒロさんの教え方では動かないかもしれないね。でもいろんな馬の動かし方を知っておくのは、いざというときに役に立つからやっておいたほうがいいな。大げさに言えば馬って言うのは、内方で動く馬と外方で動く馬のふたつがあるけど、両方知っておけば貸与馬がどっちでも動かせるからね」ということでした。

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