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(2002.5.17 宮崎・シーガイア乗馬クラブ)
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ピースくん17歳、たてがみに白いものがまじるお年頃。
友人の結婚式に相方ともども招待され、実家のある宮崎市へ。せっかくなので馬に乗るか見るかはしたいなぁ、と思って乗馬クラブを探したのですが、宮崎市内にはなさそう。
と思ったら、ありました。しかも宿泊先のホテルの隣に。シーガイアに「遊ステーション」という様々な体験施設が併設されているのですが、そのなかに野外乗馬体験というのがあるじゃないですか。外乗ができるぞ〜。
しかしその事実を知ったのが前日の夜だったため、当日朝に遊ステーションのフロントへ電話すると、「乗馬クラブのほうに聞いてみて折り返しご連絡します」とのこと。10分後に来た連絡は、「野外騎乗の予約は大丈夫ですが、海が荒れているので海岸には出られませんがよろしいですか」「いいです、馬に乗れれば」
そんなわけで、16時から1時間の外乗予約を入れました。1時間の外乗で8000円は割とお安いんじゃないですか。
そのため、急遽ショートの乗馬ブーツを履いて行きました。これ、馬に踏まれても大丈夫なように、つま先に安全板、足裏にシャンクが内蔵されているため、飛行機のボディチェックでいちいち鳴る(笑)

飛行機の着陸が遅れたことと、昼食の場所を探すのにとまどったせいで、シーガイアについたのは16時ぎりぎりでした。とり急ぎホテルに荷物を置いて、施設フロントに着いたのが16時ちょうど。フロントで聞いてみると、「ここからちょっと歩いて7〜8分くらいのところなんですけど」と教えてもらった道順は、ホテル方面に戻って通り越す感じ。直接乗馬クラブに行けばもっと早かったのね。そういうことは予約時に教えて欲しかった・・・
フロントで地図をもらい、乗馬クラブへ向かって急ぎます。

松林の中を抜け、ようやく乗馬クラブの看板を発見。すでに10分以上遅刻です。
敷地内に入るとログハウスがありましたが、人の姿は見えません。と、プレハブの中からひげを生やした男性が出てきました。おそらくオーナーでしょう。声をかけて遅刻をわびると、プレハブの中に案内され、荷物などを置かせてもらいます。更衣室のようです。ログハウスから若い女性が出てきて、栗毛の馬を馬場に出し、自分がまたがりました。
彼女が馬上から、「馬乗ったことあります?」「普段ブリティッシュなんで、60鞍くらいですけど」「じゃあ、ウエスタンとブリティッシュの違いを説明しますね。まず鐙ですけど、長いですよね。足は鐙に軽く乗せるくらいでいいです。膝が伸びるくらいで」膝を伸ばすというのはブリティッシュもそうだけど、伸ばす方向が違うみたい。ブリティッシュは脚を後ろに引くので、下に向かって伸ばす感じだけど、ウエスタンはほとんど前に足を突っ張っている状態。
「馬を動かすのは声です。前に出すときは『ハイ』って言えば動きます。あとは軽く蹴るとかですね。 それから手綱の持ち方ですけど、ルーズレーンです。ブリティッシュはかなりきつく手綱持つと思うんですけど、ゆるーくして、片手で持ちます」以前、サンシャインンステーブルスで乗ったときには、こちらがブリティッシュ経験者ということを考慮してくれて「なんちゃってウエスタン」だったので、鞍はウエスタンだったものの、勒や手綱はブリティッシュのものを使ってくれたのです。ウエスタンの手綱は、両方のハミにつないだ長い革紐を、適当なところでまとめて結んだという感じ。その結んだ紐の中に左手の人差し指をひっかけて、残りの指で結び目を握るという形のようです。「この革の先は、必ず馬の左側にたらしてください。右側にたらすと、うちの子たち追いムチだと思っちゃうんで」
彼女は馬から下馬すると、「これ初心者用につけてるんですけど、経験者だから外しますね」鞍からハミにつながっていた白い太糸を外しました。「何ですか、それ?」「シャンポンって言って、馬が首を下げないようにするんですよね」ああ、そう言えば日の出でも調教のときそういうの着けてたかも。
「そのへん歩いてると、馬が草を食べたくて首を下げたりするんで、下げられないように頑張ってくださいね」

その栗毛の馬を作りつけの大きな騎乗台の前に連れて行き、「じゃあ騎乗しましょう。ステラっていうんですけど、女の子なんで、男性のかた乗りましょうか」相方がステラちゃんに騎乗。それを見ていてふと気がついたのですが、「この馬、ハミなしですか?」口の中にはまったく金具が入っておらず、あごの下にハミらしきものが出ています。「口に入れないハミってあるんですよ。ホントは口をケガしてる馬とかに使うんですけどね」「口に入れないで、どうやって動かすんですか?」「手綱を引くと、鼻革が押さえられるんですよ」あごの下にかかっている金具が手綱の動きを伝えて、鼻革を押さえるようになっていました。ウエスタンのハミは効きが強いっていうけど、きっとこの馬はハミに敏感すぎるんだろうな。
そのまま待っていると、鹿毛の馬が引き出されてきました。騎乗台に上り、騎乗。座った感じ、馬体の幅はけっこう大きい。鐙を1穴短くしてもらいましたが、それでもやっと鐙に足が触っているという程度で、踏んでいるという感じではありません。でもウエスタンだから、こんなもんなのかなぁ。
「ハイ」と声をかけてかかとを軽く馬体に触れると、前に歩き出しました。5歩ほど歩かせて止まり、そのまま待機。さっきの女性インストラクターが牛のような模様の馬に乗って出てきて、私たちと向かい合う格好で馬を止めました。
「座り方ですけど、鞍に深く腰掛けて、王様女王様になったつもりで偉そうに座ってください。ウエスタンはカウボーイが一日中馬に乗ってて疲れないための乗り方なんで、うちで椅子に座っているくらい力抜いて大丈夫です」ウエスタンの鞍は後橋が高く、そのぶん鞍つぼが深く感じます。後橋に腰をあずけるくらいの気持ちで上体を後ろに倒します。
「曲がりたいときは、片手で手綱を持ち上げて、曲がりたい方向に傾けてください。手綱が首に当たるのを嫌がってそれていきますから」へぇ。普段は、馬は手綱が首に当たっていることによって安心すると習っているんだけど、これもウエスタンとブリティッシュの調教の違いでしょうか。
「それで順番ですけど、ステラちゃん女の子なんで、後ろにつかれると嫌がるんで、ピースくんから行きましょうか」
牛のようなハックくんを先頭に、ピースくん、ステラちゃんの順で常歩を始めます。

馬場は、宮崎海岸特有の松林の中に作られたコースです。先導馬について常歩で歩き、コース内に立てられた柱でスラロームをしたりしますが、手綱の勝手が違うのでぎこちない方向転換。これは馬が勝手に前の馬について歩いてるだけだな。
「脚、使っていいんですよ」「あ、いいんですか」鐙の形が違うので、ブリティッシュほど脚が馬体に密着しないので、脚は使わないものだと思いこんでいました。
「馬を止めてみましょう。『ロー』と声をかけて、手綱をゆっくり引いてください」止めるときの手綱の引き方はブリティッシュと同じだな。動かすのが「ハイ」、止めるのが「ロー」ね。あっ、high&rowか。英語なんだ。
「じゃあ軽く、ジョグ・・・速歩いきましょう」あ、速歩はジョグっていうんだ。ブリティッシュではダグだけど(あとで相方の言うには「ジョギングのジョグだね」あ、ほんまや)。
先導について「ハイ」と声をかけ、軽くかかとを馬体に当てると、これまたかる〜く速歩を出しました。ウエスタンには軽速歩なんてものはないので、ひたすら深く鞍に座って速歩するしかないのですが、この子は思ったより反動が高い。ブリティッシュで乗っているときよりはるかに背中の力を抜いているつもりですが、けっこう鞍の上でお尻が跳ねる。鞍が固いせいもあるかもしれないですが。
速歩で馬場を2周、ピースはのんびり走ってくれますが、前のハックにくっつかんばかり。あんまり近いので少し手綱を控えましたが、ウエスタンのハミは効きすぎるという意識があって、思い切って引くことができません。もうピースくんの鼻はほとんどハックくんのお尻にくっついていて、こりゃやばいなぁと思ったのですが、両馬ともおとなしく、蹴ろうともしないし噛みつこうともしません。
「おとなしいでしょ、うちの馬」「ホントですねぇ。なんて種類ですか?」「この子たちはクォーターですね。このハックくんだけ、クォーターと道産子のあいのこです」ハックの牛のような模様や、重種みたいな長いけづめ毛はそういうことなのね。

オーナー(たぶん)にデジカメを預けていたのですが、預かってくれるだけかと思ったらバシバシ撮ってくれている模様。クラブハウスの前で止まったとき、相方と並んだ写真を撮ってくれるというので、ピースとステラを並べたら、「ハックちょっとあっち回ってて」と、ハックのお尻に自分の背中をもたせかけてどかせようとするオーナー。ハックは蹴りもしないで体をずらします。
「ほんとおとなしいですね!普通そんなことできないでしょ」
「ほんとはやっちゃいけないんだけどねー」サラだったら蹴られてますよ、ホント。

ハックから女性インストラクターが下馬。変わって騎乗したオーナーが、「彼女達はブリティッシュ経験者?」「そうです」騎乗ぶりを見て分かるもんなんですねぇ。
「鐙ちょっと長いでしょ?1穴短くしようね」
女性インストラクターが1穴短くしてくれて、やっと鐙が「踏める」感じになりました。本当のウエスタンとしては長いのでしょうけれどね。
「ブリティッシュの人には手綱の扱いがやりにくいと思うけど、基本的には左手だけで。止めるときには少し上に持ち上げる感じでね。やりにくかったら止めるときだけ両手使ってもいいし、自分のやりやすい方法見つけて下さい。N、手綱5センチ長くしてあげて」
結び目を変えて手綱を長くしてもらい、いやでもルーズレーンの状態になります。

「それじゃあ外に出ましょうか。経験者の方には申し訳ないんだけど、今日は海岸に降りられないんですよ」「ここのところ天気が悪いって、ホテルの人にもタクシーの人にも言われました」「ほんとですよ、海が売り物なのにねぇ」
言っている間にも、ときどき雨粒が落ちてきます。1時間くらいはどうにか持ちそうだけど。
「じゃあここから外に出ますけど、松林に入ったとたんピースくんはランチタイムになるんで、頑張って上向かせて下さいね」
言われたとおり、松林に出るとあっちの草、こっちの枝と目移りしてしょうがないピースくん。しゃんとしてなさい、という合図を、ブリティッシュなら送れるけど、ウエスタンではどうしたらいいんだか分からない。とりあえず手綱を上に持ち上げて阻止。
つねづね、乗馬というのは馬に通じる言葉を覚えてあげる作業だと思っているんですけど、様式が変わると突然外人と話しているようなもの。なんとなくは通じるけど、通じてるんだか自信がありません。だって、馬が覚えている言葉と、私が覚えている言葉は別の言葉なんですから。

松林を常歩で抜けて、アスファルトに出ます。
「舗装されてるところは、あんまり走りたくないからね。この子たちは前しか鉄(蹄鉄)履いてないから」後ろからハックの足下をのぞくと、確かに後脚に鉄が見えません。じゃあここはレイニングとかはやらないんだな(レイニング競技をやる馬は、すべりがいいように後ろ脚にごっつい鉄を履いているそうです)。
しばらく歩いて、小さなトンネルを抜けるとそこはコンクリートの防砂堤で、目の前に一ツ葉海岸が広がっていました。「ほんとはここを出ると、ずーっと走って行けるんですけどね、今日は海がこんなだから」波が高い上に満ち潮らしく、防砂堤のすぐ下まで波が迫っています。「あと、このへんはアカウミガメが産卵するんで、あんまり砂浜踏まないでくれって言われてるんですよね。波打ち際ならまぁ大丈夫でしょう、って言われてるんだけど」
馬を返して、トンネルを戻り、アスファルトのゆるい坂を上っていきます。
「このへんでジョグ出してみましょうか」
「ハイっ」と言っただけで、脚も使わず簡単に速歩が出ます。「ウェスタンは簡単でしょ、声だけで動くから。ブリティッシュは駈歩出すんでも大変だもんねぇ」
先導のハックくんにぶつかるくらいになっても動じずに、ぱかぽこ走るピース。ちょっとは抑えようと思うんだけど、どれくらい引いていいかが分からない。しょうがないので、すこしハックの外側に持ち出すと、ハックに併走せんばかりの勢い(と言っても、のんびりした速歩には違いないんだけど)。
「珍しいねぇピースくん、今日はどうしてそんな元気なの。こいつ普段あんまり動かないんですよ」
あとで考えると、私は脚を使っていたつもりはないんですけど、ブリティッシュ式に脚が馬体に密着していたかなーと思います。ウェスタン調教馬で、その状態に慣れていないピースくんは、追われてると思ったのかも。

常歩と速歩を織り交ぜながら松林を抜け、ふたたびアスファルトに出ます。
「馬は軽車両扱いですから、左側通行します。ここは制限速度あるんで、40キロ以上出さないでくださいねー」「ははは、気をつけまーす」「まぁ、この子たちじゃ40キロも出ないですけどね」「でもクォーターでしょ?400メートルだけなら出るかも」
※クォーターホースの名前の由来:昔アメリカで、4分の1マイル(1マイル=1600m)の距離ならサラより早いというので、400メートルレースで使われていたそうです。4分の1マイルなので、クォーター。※
車通りの少ない2車線道路に入ると、「この道は車来ないんで、ちょっと高度なことしましょう。この中央線使って速歩でスラロームします」道路中央の白線は、5メートルごとに破線になっていますよね。その白い部分を踏まないように、右へ左へと馬を回します。脚を使うというよりは、上体のバランスを傾けるようにして、手綱を曲がる方向へ傾けると、けっこう上手くいく。
しばらく行くと、もう乗馬クラブの入り口についていました。方向音痴の私には、どういうふうに回ってここまで来たんだかちっとも分からなかった。

クラブの馬場内に戻ると、「せっかく来たんだから、お尻痛くして帰ってもらいましょう。ジョグで馬場を2周しますよ」
速歩でトラックを2周、トラックの中に斜めに走っているたすきがけコースを1周。海岸に出られないためにあんまり走れなかったので、気を使ってくれたのでしょう。
「ここはもうすぐ移転するんだけど、連絡先同じですから、また宮崎に来たら乗りに来てくださいね」近くのゴルフ場が拡張するので立ち退くそうですが、同じ海岸のそばに移転するそうです。「この子たちが生きてるうちに来てね」「いくつですか?」「ピースとハックは17歳かな?ステラは8歳」
コースの真ん中に馬をとめると、ちょうどオーナーの携帯電話が鳴りました。馬上で電話しているオーナー。下馬しようかどうか迷っていると、ハックがこっちを向いたので、ピースと鼻面付き合わせる形になってしまいました。あら、やばい・・・と思いましたが、2頭とも鼻をこすりあわせて友好を深めている模様。「すごいな、これでけんかしないなんて」「うちのウィンダムに爪の垢でも飲ませてやりたいね」「じゃあ少し削蹄して」
オーナーが電話しながら、”すみませんけど、下馬しててください”という身振りをしたので、とりあえず下馬。

私が乗っていたピースは、女性インストラクターが出てきて連れて行ってくれましたが、他に人手がなさそうなので、ステラちゃんは相方がそのまま引いて行きました。
すぐそばの馬繋場に着くと、「すいません、つなぐところ決まってるんで」「あ、そうなんですか、ぜいたくですね」「いや、5頭しかいないもんですから」
電話が終わって、ハックをつないだオーナーが放牧場(と言ってもコースの中)に行き、柵を外しました。と、オーナーは引き手も持たずに、馬に「行くよ」というと、そのまま走り出しました。すると放牧されていた馬、つながれてもいないのに、オーナーにくっついて走り出すではありませんか。結局彼の馬房まで、走るオーナーとあとをついていく馬。こんな光景初めて見たよ。
夕飼いの時間だったということもありますけど、5頭のうち3頭は引き手なしで、人にくっついて馬房まで行きました。すごいなー。

馬房の中を見せてもらったりして、しばらく遊ばせていただきました。どうも馬に乗りに行くと、そこでのんびりするくせがあります、私たち。
いい人たち、いい馬たちだったので、また行きたいです。


女王様のつもりなんだけど、つい脚を引いちゃうのよね
(本文参照)


放牧場も兼ねた広い馬場。もとは陸上競技場だったらしい

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