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(2002.9.7 あきる野・日の出乗馬倶楽部)
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今日の騎乗馬ではありませんが、敢えてトリコロールの
元気な姿を載せさせてください(2002年7月撮影)。
一応、奥にロゼッタのお尻が見えてます。
トリコロール
今日は夕方から倶楽部のバーベキュー大会。午後から買い出しなどのお手伝いがあるので、騎乗はいつもどおり11時からということにしました。
朝起きると雨が降っていて、この分では騎乗できないかなと思ったのですが、自宅と倶楽部の天気が違うということは往々にしてあるので、とにかく倶楽部へ向かいます。途中の駅で外を見ると、雨が降った気配がありません。武蔵益戸駅に着いてみると、降った形跡はあるものの、現在は降っていませんでした。なぁんだ。

倶楽部に着くとホワイトボードの前にN子さんがいて、何と言っていいか分からない、という顔で黙ってホワイトボードを指さしました。最初は何のことか分かりませんでしたが、一番上の行がヘンに広く、でかでかとダンスの名前。新馬のダンスの名前ってこんなに上にあったっけな?
「…あっ、トリコ」「うん、ダメだったの。今朝ね」
一番上の行はトリコロールの名前があったはずなのですが、トリコの名前が見あたらない。少し前に捻挫をし、運動不足からか疝痛ぎみで、良くなったり悪くなったりを繰り返していたのですが、ついに亡くなってしまったのです。2日前に来ていたN子さんから、トリコの調子が悪そうだということを聞いていたのですが、今日は治っていてくれるだろうと思い、お見舞いに砂糖を持ってきたんだったのに。
日の出に来てから14鞍も乗せてもらったトリコロール、最後に乗ったときには「お前もまだまだじゃ」と私の騎乗技術を笑うような態度を見せた、がんこじじいのトリコロール。まだまだ彼に教わることはいっぱいあったはず。
彼は20歳でした。

11時からの騎乗があるので、とにかく着替えをしてロゼッタの馬房へ。ロゼッタの馬房への途中にトリコロールの馬房があり、ついそちらに足が向いてしまいました。
馬房はすでにきれいに片づけられ、水で洗ったあとでした。空っぽの馬房から立ち去りかねていると、トリコロールの様々なたたずまいが胸に迫り、涙がこみ上げてきました。
いかにもおじいさんっぽい眠そうな目や、しまりが悪くていつも笑っているように見えた口もと。そのくせいい年をして気が強くて、噛まれたこともあったっけ。新馬のフロスティを「気にいらん」と言ってブヒブヒ言っていたのは、ついこの間のこと。右目だけ目やにが溜まりやすくて、いつもとってあげたけど、最後に会ったときには疝痛でその目から涙を流していたトリコ。
馬繋場に人の気配がしたので、涙を拭いてロゼッタの馬房へ。時間もないし、ぐずぐずしていてはトリコに笑われてしまう。
ロゼッタは馬房でこちらを向いていてくれたので、無口をつけて引き出します。

今日は涼しいので虫も少なく、ロゼッタは馬繋場でとてもおとなしくしていました。
先週外れていた右前肢の蹄鉄も、今日は打ち直してありました。蹄の裏を掘り、ブラシをかけて鞍を置きます。腹帯を締める前にマルタンガールと胸がいを装着しますが、胸がいが見あたらない。ちょうどやってきたスタッフのK村さんに、「ロゼの胸がい知らない?」と聞いてみると、「いいよ、なければないで」ということなので、そのまま腹帯を締めます。もう11時になるところだったので、ハミをかけようとすると、今日のロゼは自分から口を開けて待っていてくれました。ロゼを連れて馬場に出ます。

馬場に出ると、K野さんが胸がいを持って待っていてくれました。そっちにあったのね。マルタンをハミに通す間に、K野さんとU村くんに胸がいをつけてもらい、踏み台を使って騎乗。馬繋場で鐙を合わせる時間がなかったので、鞍上から1穴短くします。「自分で腹帯締められます?」「やってみる」私が腹帯を締め直す間、そばに立っていてはくれたけど手を出さずに、K野さんが見ていてくれました。頑張って締めて、「大丈夫ですね」
今日の部班はN子さんのウィンダム、相方のロッキーと私のロゼッタの3頭です。I野先生が出て見えて、「まずロッキーからだな…つぎロゼッタ、ウィンダムで」いつものように、左手前で蹄跡に出ます。

ゆっくりゆっくり歩くロゼッタ、ロッキーにどんどん置いていかれてしまいます。
少しずつ脚を強くし、1歩ごとに蹴るくらいになりました。I野先生に「ムチももっと強く入れていいぞ」と言われたので、自前の短鞭をロゼッタの肩に入れ、大きな音がすると少し元気に歩きます。
「ムチや脚はメリハリつけるんだぞ。ずっと同じ強さで入れてると、馬はびっくりしなくなるから」なるほど。基本的には脚で刺激して、数歩ごとに蹴りを入れ、それでも元気にならなかったらムチ、元気になったらやめてあげるけど、元気にならなかったらまた数歩ごとに蹴りを入れ…ということを繰り返してみると、まぁまぁ元気良く歩けるようにはなったのですが、ロッキーとの距離はまだ4馬身くらいある。「手綱を片手で持って、空いた手で腹にムチ」と、先生がジェスチャーで見本を見せながら教えてくれました。外方の拳で手綱をまとめて短めに持ち、内方の手でムチを持って、腹の下に思い切り入れると、速歩が出そうな歩様になりました。手綱を持ったままの手でムチを入れるのは下手なので、ちゃんと入れるときはこれくらいしたほうがいいのね。
この時点で、短鞭を長鞭と取り替えられました。短鞭の大きな音も効果あるのだけど、巻き乗りのときなどは鞭が腹に届かないのでどうにもならない。
「おいおい、後ろに気を遣って少しは押さえろよ」と先生に言われてしまっている相方、ホントだよ全く。

「歩度をつめ、はやあーし」脚で追い、長鞭を肩に入れると2歩目で速歩が出ました。そのまま軽速歩の指示が出ないので、速歩を続けます。K野さんに言われているとおり、上体を後ろに倒して、体中の関節を動かすくらいのつもりで、そうそう、かかとも反動ごとに踏み下げるつもりで。
ん?あんなにどっかんどっかん跳ねて痛かったお尻が、今日は痛くない。お尻が跳ねていないことはないけど、ここ3鞍ほどロゼッタに乗ったときの座骨の痛さが、今日はほとんどありません。もしかして、少しは座れてる?
考えてみると、久しぶりに尻革のついたキュロットを穿いたので、それで鞍付きが良くなったんだと思うのですが、それにしてもこの変わり様は凄いな。尻革って偉大だったんだ。これくらい痛くなければ、正反動の練習もつらくないぞ。こんないいキュロット穿いてて、私今まで何やってたの。
どっかでK野さん見てないかなー、見てたら「お尻が痛くないよ!」って報告しようと思ったのですが、姿が見えません。ゆうべからトリコのことで疲れ切っているようだったから、どこかで休憩しているかも。そうそう、トリコは見てるかな。あんなにできなかった速歩、ちょっとは上手くなったでしょ?

軽速歩をとると、前のロッキーが調子を上げ始めたので、追いつくのが大変。頑張って脚を入れますが、それでも首を下げてサボる素振りを見せるときがあるので、長鞭を首の横で振って見せると、サボるのをやめて走り出しました。
それでも止まりそうなときだけ、本当にムチを入れることにしました。止まられて、ムチを入れると1〜2歩だけ歩いて、また止まる。もう一度ムチを入れるとちゃんと走り出しますが、また首を下げてサボりにかかるので、見せムチ。止まったらムチだって、いい加減学習してよ、お願いだから。
相方は一応気を遣っているのか、ロッキーを蹄跡より外めを回らせているようです。ロゼッタにしろウィンダムにしろ、スピードののらない馬なので、こっちは内めを通らせてもらおう。部班としては気心の知れているメンバーなので、遠慮なく。

常歩におとし、周回。そのまま左手前で歩いていると、トイレの横あたりで「全員停止」ラチに沿って3頭が一列に止まる感じになります。「そのまま、左向け」馬を左に向かって回らせ、馬場中央に向かって止まります。カドリールもどきかな?
「3頭同時に、速歩すすめ」うわ、この子は速歩が出るタイミング遅いから、こういうのできるかな。手綱を引いて矯めてから、手綱をリリースするとともに蹴っても、速歩が出たのは2拍くらい置いてから。簡単に速歩が出るロッキーちゃんに置いていかれ、3頭同時の併走には失敗してしまいました。
速歩のまま右手前で蹄跡に出て、またトイレの横で停止。馬場中央を向かせてから、3頭同時に速歩発進。今度は少し早めに発進しようと思って速歩発進の準備をしたら、ロゼッタがバックしてしまいました。確かに同じ扶助なんだけど、ロゼがバックするまえにリリースしなきゃいけなかったなぁ。
馬場を横切るのに、どうしてもロゼッタは真っ直ぐ走らず、次に蹄跡に出る方向がちゃんと分かっていて、そっちへ向かってすこし斜めに走ろうとします。ロッキーに先に行かれるから焦るのかもしれないけど、ロゼちん、ズルはダメだよー。行こうとする側の手綱を張って真っ直ぐ走らせようとしますが、なかなか難しい。

馬場のそばで、お手伝いに来ている中高生たちが草刈りをしているのが見えました。あの場所は、サーブを弔った馬頭観音の場所。これから、トリコのお墓もそこに作るのでしょう。
先生がその中高生たちを呼んで、「ちょっとこっちを手伝ってくれ」と馬場に招じ入れます。横木やなんかを運び出したので、横木またぎでもやるのかな。
まず隣の馬場との境目のラチが取り払われ、馬場が全面使えるようになりました。そのまま隣の馬場へ乗り入れ、馬場全面を使った大きな蹄跡を軽速歩で走ります。
自分の中で、長蹄跡(60m)はがんがん追って歩度を伸ばし、短蹄跡(30m)は追わずに歩度をつめ、と一応メリハリをつけて走ってみました。ロゼッタも素直についてきて、長蹄跡に出たら脚を強めるとともに見せムチをすると、頑張って走っているようです。彼はエンジンがかかると、見せムチが効く子なのです。
隣の馬場で指導なしのフリー騎乗をしていたホクトも合流して、4頭部班になります。

長蹄跡の外、それぞれ隅角から10メートルくらいの位置4カ所に、障害のバーを乗せる台が置かれました。何かの目印のようです。
幹線道路側の短蹄跡(左図で、馬場の一番左の縦ライン)にきたとき、停止の指示。そこからさっきと同じように、馬場中央に向かって馬の方向を変えます。
「じゃあそこから、あっちのラインまで、軽速歩でも速歩でもどっちでもいいから、早く着いた者の勝ち。駈歩禁止だぞー」左図で見たとき、左の縦ラインがスタートライン、右の縦ラインがゴールということですね。「えっ…ロゼッタじゃハンデ欲しいなぁ…」とぶちぶち言ってみたのですが、早くもスタート。右のロッキー、左のホクトがスタートダッシュをかます中、ものすごくマイペースなロゼッタ。いくら軽速歩で脚を入れても、ちょっとしか歩度が伸びません。乗馬としては、一定の速度で走れるというのはいいことだと思うし、ロゼッタにしては頑張ってるんだと思うけどね…もちろん最下位でした。
馬を返して、今度は右のラインをスタートにして、左のラインがゴール。やっぱり最下位。元のスタートラインに戻ると、「今度は女性ふたりはハンデつき」と、ウィンダムのN子さんと私は3メートルほど前に出ることを許され、スタート。今度はホクトがつい駈歩をしてしまったので降着となったのですが、それでもロゼッタは3位。
最初のスタートラインに戻ると、お手伝い中高生たちがまた先生に呼ばれて、もとの馬場の境目当たり、各馬の進行方向にそれぞれパイロンを置いています。
「いいですかー、スタートして、右から入って巻き乗りして、ゴールだよ」右からね。右から。
スタートしてパイロンを目指し、右手前でパイロンを回ります。あれ、隣のホクトが反対側から入ってる。相方のほうを見ると、私と同じ向きで回ってるけど。
「何やってんだ、右からって言ったじゃないか」そうそう、右からって…あっ、右手前じゃ左から回ってるじゃん!右、右と思うあまり、”右から入って左手前の巻き乗り”すべきところを、”左から入って右手前の巻き乗り”しちゃったんですね。しかも相方も同じ間違いをしていて、「夫婦揃って間違ってるんじゃないぞ」と笑われてしまいました。あいたた。
もとに戻ってやりなおし。スタートでちょっと気合いを入れすぎたのか、ロゼが駈歩を出してくれて、見事降着になってしまいました。

レッスンはこれで終了、ロゼッタは午後もお仕事があるので、簡単に蹄の裏掘りだけして馬房に戻し、昼飼いをあげます。
クラブハウスに帰る途中に見ると、馬頭観音はきれいに掃除され、お花と線香、リンゴやニンジンが供えられていました。私も、今日トリコロールに食べてもらうつもりだった角砂糖を供え、お線香をたいて手を合わせます。
トリコ、まだ教えてもらうことあったんだよ。初心者係のトリコは休日はいっぱいお仕事があったから、そのうち平日に来て、トリコを独り占めして駈歩を教えてもらうつもりだったの。トリコに乗らなくなってだいぶたつけど、あれから少しはマシになったでしょ?
「お前もまだまだじゃのぅ」と言われてしまったような気がしました。これから、彼に対して恥ずかしくないような馬乗りになろう。頑張るからね、トリコ。

午後は買い出しやバーベキューの準備で忙しかったのですが、予定通り18時には始めることができました。全員にお酒やジュースが行き渡ったところで、先生が私を呼んで「今日の趣旨をみんなに言って。趣旨はこれだろ?」と手のひらに隠し持ってらしたものを見せると、それは全乗振3級の認定証。今日のバーベキューは納涼会ですが、先日のホースショーで受験した4名が全員合格したお祝いをかねているのです。あたしが言うんですかぁ?
「飲み物行き渡りましたかぁ?」と型どおりに仕切り、先生の手から3級認定証の授与をしてもらい、「では乾杯の音頭を先生から」と押しつけ返すと、さすがに先生はそつなく乾杯の音頭をとってくださいました。乾杯のあと、先生が口調を改めて、「あともう一つ。今朝、非常に残念なことに、トリコロールという名馬が亡くなりました。ここにいる皆、一度はお世話になっている、本当に名馬でした。トリコロールに、これは乾杯じゃなくて、献杯」しめやかに、皆で献杯。日の出乗馬倶楽部に初めて来たあの日、トリコと出逢い、倶楽部の仲間達と出逢い、だから今の馬乗りとしての自分がいる。そんな気がしました。

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